一流の服とはどんなものか

2011.06.25

きっかけは、こんなひと言だった。「Tシャツにジーンズで取材して回るのもいい。けれども、そろそろ一流の人間に会う取材をしたらどうか。そのためには、あなた自身が一流の服を着こなすようになることが前提だが」それまではTシャツにジーンズならまだいいほうで、夏になると短パンにビーチサンダル姿で夜討ち朝駆けをすることさえあった。自分は自分、これがスタイルだと気負ってもいた。スタイルというより、存在そのものを否定されたようで、爪いひと言だった。本来なら自分を磨くべきところだが、「一流の服とはどんなものか」に関心は向かった。調べていくと、ロンドンの仕立屋街=サヴィルロウに辿り着き、怪しげな英語でサヴィルロウの仕立屋をすべて訪ね回ったりした。わたしが訪ねたとき、すでにサヴィルロウの技術は絶滅寸前の状況にあった。イタリアのモード系ブランドが隆盛して、伝統的なスーツスタイルは堅苦し過ぎると捉えられたことも一囚だ。上衣の肩幅がやや広く、肩先が構築的に盛り上がり、ウェストはタイトに絞り、腰ポケットは斜めに切られているブリティッシュスタイルは、たしかに完成されたものなのだが、自分が着たい服ではなかった。第一、わたしの体型ではブリティッシュスタイルは似合わない。それでも、仕立屋をサロン代わりに談笑の場としている光景を見て、とても羨ましくも感じた。次いでパリの仕立屋を訪ねた。マルブッフ通りやオペラ座裏界隈には、パリのエレガンスを伝えるアトリエがある。パリの仕立方法は、サヴィルロウのそれと大きく異なる。また、そこにやって来る客の顔つきも、サヴィルロウとは別種のものだった。同じ一流の服でも、いろいろな貌があるものだ。

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